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『ファーゴ』コーエン兄弟お得意の誘拐もの傑作ダメ人間映画【ネタバレ】
今回レビューする作品は『ファーゴ』。
ジャンルとしてカテゴライズするのが難しく、サスペンス・クライム・ややコメディ要素を持つ作品です。
「コメディ?」と疑問に思うかもですが、鑑賞すれば「ああ、確かに」と多少はご理解いただけるかと。
アカデミー脚本賞も受賞している作品で、98分と短めながらも上手いこと纏まっていて大変面白い作品でございました。
『ファーゴ』でポイントなるワードは「ウソ」。
まあとにかくウソばっかり。
以降ネタバレあり
『ファーゴ』のあらすじとキャスト
コーエン兄弟によるブラックユーモアをちりばめた異色のクライムサスペンス。厚い雪に覆われるミネソタ州ファーゴ。多額の借金を抱える自動車ディーラーのジェリーは、妻ジーンを偽装誘拐して彼女の裕福な父親から身代金をだまし取ろうと企てる。ところが誘拐を請け負った2人の男が警官と目撃者を射殺してしまい、事件は思わぬ方向へ発展していく。アカデミー脚本賞、主演女優賞をはじめ、多数の映画賞を獲得した。
引用元:映画.com
上記の通り映画.comさんのあらすじ部分を読むと、クライムサスペンス的展開を期待する方も多いでしょう。
私も鑑賞前はそう思っていましたが、鑑賞後に感じたことは「この作品はコメディだ!」。
作中にコメディちっくな演技をしている人は全くいません。
最初はサスペンス・クライム系の作品と思って鑑賞していく内に感じ始めます、「これコメディか?」と。
みんな大真面目にクライムサスペンス的演技をしているのに、鑑賞する側からすると「あちゃ~」と思えるシーンの連続。
サスペンスとして観れば予想外の展開、コメディとして観れば実に予想通りの展開に突き進む作品なのです。
鑑賞前後で作品の印象がこれほど変わるとはね。
主演と助演と監督
今作で唯一まともな役、婦人警官マージを演じるのが主演:フランシス・マクドーマンド。
最近の作品だと『ノマドランド』で主演を務めたことも記憶に新しいですね。
助演は『リンカーン弁護士』で有能調査員フランク役を演じたウィリアム・H・メイシー。
そして大好きな俳優さんの一人、コーエン作品ではおなじみスティーヴ・ブシェミ。
一度見ると覚えてしまうあの独特の人相はファーゴでもキラリと光っています。
監督は兄のジョエルと弟のイーサンによるコーエン兄弟。
コーエン兄弟と言えば誘拐物が多いイメージでしたが、今作『ファーゴ』も例に漏れず誘拐物でございます。
兄ジョエルの妻は今作で主演を務める フランシス・マクドーマンド 。
コーエン兄弟の作品によく出るなーと思っていたら、妻だったんですね。
「ファーゴ」は都市の名前
今作のタイトル『ファーゴ』はノースダコタ州にある街の名前。
作品の舞台は主にミネソタ州のブレイナードであり、街としてファーゴが登場するのは序盤の酒場のシーンのみ。
確かに、映画タイトルとして使うならば『ブレイナード』よりも『ファーゴ』の方がしっくりきますわな。
「実際の事件を忠実に映画化」という冒頭テロップのウソ
まずはオープニング。
テロップが流れ、『ファーゴ』は実際に起こった事件を忠実に再現した作品であることを宣言します。
そのテロップの日本語字幕は下記、まずはご覧ください。
これは実話の映画化である
引用元:『ファーゴ』(字幕版)
実際の事件は1987年ミネソタ州で起こった
生存者の希望で人名は変えてあるがー
死者への敬意をこめてー
事件のその他の部分は忠実な映画化を行っている
「なるほど、実話を基にしたノンフィクション系か」。
なんて思ったならもうコーエン兄弟の思うツボ。
このテロップのおかげで、登場人物達のマヌケでずさんな部分が人間らしさとして見えてくるから不思議なもんです。
ただですね、このテロップはウソ。
は?
映画のワンシーンを実際の事件をモチーフにしているのは間違いありませんが、『ファーゴ』のような「狂言誘拐グダグダ事件」は実際に起きていません。
『ファーゴ』は完全なるフィクションなのです。
「ミスリードを誘うような演出」ではなく、冒頭からウソを堂々と文字で断言。
冒頭から直接的な言葉で観客を騙すのはさすがに作品としてどうなんだって感じは否めません。
ただまあこのウソテロップ含め、作品として「ウソ」をテーマに筋が通っているし何より面白いので良しとしましょうか。
ちなみに、この冒頭テロップがウソというのは映画を最後まで観るとネタバラシがあります。
エンドロールの一番最後に注目。
The persons and events portrayed in this production are fictitious.
引用元:『ファーゴ』
No similarity to actual persons, living or dead,
is intended or should be inferred.
上記はエンドロールの終盤の終盤に出て来る文言。
ここの部分には字幕版でも字幕が出ないので、Google翻訳の出番ですね。
翻訳すると下記の通り。
この作品で描かれている人物や出来事は架空のものです。
生きているか死んでいるかを問わず、実際の人との類似性はありません。
意図されているか、推測されるべきです。
はい、ネタばらし。
英語を読める人なら、エンドロールの最後の最後にこの文言を見つけて「やられた!」ってなるのでしょうね。
ヘラ・クラフツ殺害事件
冒頭テロップが完全なるウソって訳ではなく、映画のあるワンシーンのみ実際の事件をモデルにしています。
それが「 ヘラ・クラフツ殺害事件 」。
詳しい説明はWikipediaに任せるとして、この事件が物凄く凄惨なのです。
『ファーゴ』において最も残虐でグロいシーン、木材粉砕機で遺体を粉々にする場面が「ヘラ・クラフツ殺害事件」をモチーフにしたシーン。
よりによって、最もフィクションであって欲しい場面が実際に起きた事件を再現したとかね。
「ウソ」「フィクション」ばかりのこの作品で、ここだけはノンフィクションというのが何とも。
ウソの誘拐計画とウソっぽい闇社会のプロ
まず話の大筋としてあるのは身代金目的の誘拐計画です。
冒頭にも書いた通り、『ファーゴ』のポイントは「ウソ」「フィクション」。
この誘拐ももちろんフィクションなのです。
金に困った車屋のジェリーが、アウトロー2人組を雇い自身の妻を誘拐するよう持ち掛けます。
金持ちである義父から金を巻き上げる自作自演の誘拐計画ですが、計画は驚くほどに上手く進みません。
車屋のジェリーを演じるのはウィリアム・H・メイシー。
見れば見る程冴えない、小物感あふれる雰囲気が何とも言えません。
アウトロー二人組は「金さえ貰えればキッチリ仕事はするぜ」的な雰囲気を醸し出していますが、完全に雰囲気だけ。
『コン・エアー』でで抜群の存在感を放っていたスティーヴ・ブシェミ演じる勝負弱そうな小悪党:カール。
『プリズン・ブレイク』のアブルッチ役でおなじみのピーター・ストーメア演じる寡黙でヤバそうな男:ゲア。
アウトローコンビ、カール・ゲアの容量の悪さとずさんな雰囲気は画面を通してビンビンに伝わってきます。
どう見ても特殊な訓練を受けていない完全に普通の主婦であるジェリーの妻。
自宅でくつろぐTHE普通の主婦:ジェリー妻の拉致にめちゃめちゃ手こずるアウトロー二人組。
そして何とかジェリー妻を拉致したと思ったら今度は職質、職質のきっかけは車のナンバープレート付け忘れ。
なんて間抜けな奴ら・・・と思っていたら、職質してきた警官の命を容赦なく奪うゲア。
そして警官殺しを目撃したカップル(親子?)の命も容赦なく奪うゲア。
目的はお金であり、誰も傷つけないはずの狂言誘拐がいきなりとりかえしのつかない「あちゃ~」な展開。
ここから先はあれよあれよと計画が狂い、取返しのつかない事態に転がり落ちていきます。
ウソの誘拐計画と、ウソくさい闇社会の人間カールとゲア。
そしてこの3人の被害者を出した事件の捜査に当たるのが、本作の主人公:婦人警官マージ。
今作に登場する唯一のまともな人間といってよいでしょう。
いやあ、冒頭から「ウソ」と「フィクション」のオンパレードです。
ジェリーの強欲とウソのような計画性のなさ
いきなり3人の被害者を出す想定外すぎるスタートを切った誘拐計画。
義父から大金巻き上げる作戦も全く上手いこと進みません。
本当は身代金8万ドルを義父に要求する計画でしたが、ここでジェリーのウソがさく裂。
アウトロー達とは事前に身代金8万ドル要求で打ち合わせていた一方、身代金を用意する義父には「100万ドル要求された」とウソをつきます。
その差額である92万ドルを自らの懐に入れようとしたんでしょうね。
ただジェリーのこの計画は失敗。
義父から100万ドルを受け取って、身代金の受け渡し役をジェリーが引き受けるつもりがパワフルな義父に押されて身代金受け渡し役は義父のお仕事に。
92万ドルを中抜きするチャンスもなく、100万ドルはあっさりと身代金受け渡し役のカールの手に渡ってしまうのです。
そして、身代金受け渡しの現場で義父はカールにあっけなく命を奪われます。
あちゃ~。
身代金は8万ドルのはずが、カバンを開けると明らかにそれより大金があることに驚くカール。
もちろんカールも差額の92万ドルを独り占めしようと、8万ドルを残し他はこっそりと道中の雪の中に隠してゲアが待つアジトへ戻ります。
一方アジト。
ジェリー妻と留守番していたゲアにより、「うるさい」という理由でジェリー妻は既にあの世へ。
そして今度は冴えない悪役お決まりの展開、仲間割れです。
ゲアとカールが取り分で揉めてゲアがカールを葬り、挙句の果てに木材破砕機でカールを粉々にするというイカレっぷりを見せるゲア。
カール粉々作業中、婦人警官マージにより発見されゲアは逮捕されます。
ジェリーの計画では、誰も傷つけることなく義父から身代金を受け取るはずが真逆の展開に。
- 誰も傷つけない→警官・警官殺しの目撃者カップル・ジェリー妻・義父・カールが犠牲に
- 身代金を受け取る→誰一人として金を手にできない
ウソっぽいアウトローコンビとジェリーの計画性のなさ・強欲が招いた悲劇でしかありません。
突如現れる怪しいアジア人マイク・ヤナギタのウソ
『ファーゴ』で印象的な登場人物の一人がマイク・ヤナギタ。
初見では「なんのためにコイツ出てきたんだ?」と感じました。
ただまあ、よく考えると彼の登場はこのウソにまみれた作品であることを強調するためなのかと推察できます。
- リンダと結婚した
- リンダは白血病で亡くなってしまった
と、涙ながらにマージに話を聞いてもらいます。
優しいマージは真剣に彼の話を聞いて、「何と言葉をかけていいものか」と言わんばかりの表情で答えます。
が、マイク・ヤナギタの話は全部ウソ。
前後のシーンから推察するに、マイク・ヤナギタはマージに好意を抱いていたのは間違いありません。
このウソの話によってマージから同情を買ってあわよくばなんて考えていたんでしょうかね。
マージは夫LOVEな素敵な女性ですから、そんなヤナギタの手には乗りません。
そして後日、このマイク・ヤナギタの話は全部ウソだったことにマージは気付きます。
ここでもまた 「何と言葉をかけていいものか」と言わんばかりの表情が冴えわたります。
仕事では金のために簡単に命を奪いウソをつく男達の捜査。
プライベートでは人の命を軽視して異性の気を引こうとする人間を目の当たりにして、マージは実に哀しい顔をしています。
それにしてもマイク・ヤナギタをなぜアジア人設定にしたのか、それは謎。
金とウソに踊らされる男と真逆な男、マージの優しいウソ
結局ゲアとジェリーは逮捕。
ウソと強欲で大金を手にしようとした男達は、結局一銭も手にできずに物語を終えます。
そして今作ではそんなポンコツたちと対極の存在として登場するのが婦人警官マージの夫:ノーム。
彼は絵描きで愛妻家、そしてお金に興味の無いタイプの人間なのです。
アホみたいな男達ばかりを相手にしていたマージ。
その対極にいる夫ノームが、好きなことにひたむきになっている姿を愛おしく感じているようです。
ノームは絵描きとしてあまり大成していようですが、ラストシーンでは「真鴨」の絵が3セント切手に採用されたことをマージに報告。
ノームは「3セント切手なんて使うヤツいねえ」なんて文句をたれますが、「いつか使われるわよ」というマージの優しいウソ。
ノームは腕で優しくマージを抱き寄せ、2人仲良く布団に入ってテレビを眺めるのでした。
「本当の幸せは金じゃねえ!こういうことなんだぞ!」というコーエン監督のメッセージがビシビシ伝わってきます。
ウシジマくん的展開のクライムサスペンスコメディ
ということで、『ファーゴ』ネタバレ考察レビューでした。
ジャンルを一言で表すのが難しく、「クライムサスペンスコメディ」と言ったこところでしょうか。
初見感想は「ウシジマくんでもこんな話ありそう」、ウシジマくん好きな方はたぶん好きでしょう。
序盤はサスペンス、終わってみればコメディという監督にしてやられた作品でした。
コーエン兄弟、やるな。