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『ロード・オブ・ウォー』需要と供給に敏感な凄腕武器商品の半生【ネタバレ】
今回レビューする作品は『ロード・オブ・ウォー』。
武器商人を主役にした映画って珍しいですよね。
自分の知らない世界を疑似体験しながら学べることは映画の魅力の一つ。
社会勉強も兼ねて是非鑑賞してみてはいかがでしょうか。
世界平和だとか紛争だとか戦争だとか、色々と考えさせられます。
以降ネタバレあり
『ロード・オブ・ウォー』のあらすじとキャスト
史上最大の武器商人と呼ばれた男の半生をニコラス・ケイジが演じる風刺アクション。ウクライナで生まれて家族といっしょにアメリカに渡ったユーリーは、やがて武器の売買に目をつけ、世界有数の武器商人に成り上がっていくが。監督は「ガタカ」「シモーヌ」のアンドリュー・ニコル。ユーリーの逮捕を狙うインターポールの刑事役でイーサン・ホーク、ユーリーが仕事に引き入れる弟役でジャレッド・レト、ベテラン武器商人役でイアン・ホルムらが共演。
引用元:映画.com
日本に住んで普通に暮らしていれば、まず確実に出会う事のない職業であろう武器商人。
「武器商人」と聞いて、「どうせマフィアや麻薬組織、はたまた不良グループの商いでしょ?」なんて思ったら大間違い。
『ロード・オブ・ウォー』の主人公ユーリー・オルロフは家族経営のレストラン出身の超一般人。
軍事産業出身でもなければ軍人出身でもない、マフィアでもなければ国家の後ろ盾があるわけでもない、一般人上がりの完全個人事業主武器商人の半生を描いた映画なのです。
「武器」を扱う映画ですが、マフィア・ギャングは一切登場なし、ドンパチ派手なアクションもなし。
「武器商人」というビジネスに的を絞ったことで、映画全体がスタイリッシュになりなおかつ深みが出たように感じます。
それとですね、今作の見所の一つが冒頭。
時間にすれば5分もない短い映像ですが、引き込まれるように見入ってしまいましたね。
弾丸目線で描かれた、題して「弾丸の一生」。
工場で弾丸が作られ、パートのおっちゃん達がダンボールに箱詰め、雑にピックアップトラックで輸送。
そしてラストは子供の額を目掛け一直線。
懐かしのTV番組『クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!』の「何を作っているんでしょうか?」を思い出しますね。
『ロード・オブ・ウォー』 主要キャストと監督
『ロード・オブ・ウォー』の主演はニコラス・ケイジ。
大好きな映画『60セカンズ』と似た役どころで、犯罪者でありながらも非暴力な知的スマートな武器商人ユーリー・オルロフを演じています。
非合法の武器商売なのでもちろん犯罪者ですが、いつもスーツにブリーフケースの紳士的なビジュアル。
暴力は一切使わないので一見するとただの富豪おっちゃんにしか見えません。
ものすごくニコラス・ケイジらしさを感じるキャスティングです。
そして監督はアンドリュー・ニコル、名の知れた監督作品は『ガタカ』でしょうか。
『ガタカ』も、今作『ロード・オブ・ウォー』もかなり良作。
まだ50代だし今後にも期待したいですね。
実話を基にしたフィクション映画、モデルは3人?
『ロード・オブ・ウォー』は実話を基にしたフィクション。
複数の武器商人をモデルにした映画なのです。
じゃあ一体誰をモデルにしたのか?、気になるところでしょう。
わかりますよ、その気持ち。
ただまあ残念なことに、公式に「ユーリー・オルロフのモデルはコイツ!」と明かされていません。
なのでね、あくまで私が調べた結果ではあるんですが「コイツはモデルだ!」、と認定した武器商人3名を紹介します。
あらかじめ言い訳しておきますけどね、武器商人のことはネットで調べても調べても中々情報が集まらない。
武器商人は国際的な悪人、あまり詳細な情報がネット上に落ちていないんですよね。
紹介しておいてあれですが、間違いあればごめんなさい。
モデル1:ビクトル・ボウト
まずは『ロード・オブ・ウォー』のモデルとして必ず名の上がる男ビクトル・ボウト。
酒場と葉巻と拳銃の似合いそうな風貌をしたロシア人です。
- 世界各国で商売
- 複数の飛行機で密輸
- 世界最強の武器商人
うーん、国籍は違えどユーリー・オルロフそのもの。
彼は2008年にタイで逮捕、しかしタイの裁判所はアメリカへの身柄引き渡しは拒否。
なんでやねんって感じですが、よく考えるとロシアが裏にいそうなんですね。
まずもってビクトル・ボウトはロシア人。
そしてタイにとっては地球の裏側にいるアメリカよりも、近所のロシアと仲良くしておきたい思惑もあるんでしょうよ。
「遠くの親戚より近所の他人」なんてよく言ったもんです。
結局はアメリカに身柄を引き渡されて、2012年に禁固25年の有罪判決を受け服役中。
モデル2:サルキス・ソガナリアン
続いてのモデル候補はサルキス・ソガナリアン。
脂っこい食事が好きそうな体形した丸っこいおっちゃん。
あのサダム・フセインに武器を売りまくっていたエピソードが有名。
世間的な善悪だとか、この武器をこの人に売ったらどうなるかなんて考えないスタイルはユーリ・オルロフそのものでしょう。
モデル3:レオニド・ミーニン
最後はウクライナの武器商人レオニド・ミーニン。
- リベリア独裁者チャールズ・テーラーが顧客
- 美術品窃盗で逮捕
ユーリ・オルロフが、リベリアの独裁者に武器を売っていたのは間違いなく彼をモチーフにした部分でしょう。
そして妻の書いた絵画(美術品)を購入するシーンは、レオニド・ミーニンの美術品窃盗あたりから着想したんじゃないでしょうかね。
そしてウクライナ出身という点もユーリ・オルロフと一致します。
需要があるから成り立つ武器商売
なぜ非合法な武器商人がこの世に存在するのか?、それは需要があるから。
例え非合法だろうと、武器商人から武器を買いたい需要が存在するという事実を忘れてはいけません。
需要と供給があってこそ商売は成り立つ、商売の基本ですよね。
映画を観ていて感じたのは、武器商人の顧客は国家ではないということ。
要するに、民兵やらテロ組織やら合法的に軍事産業と取引できない集団を相手に商売しているんですよね。
映画で印象的なのは、自由の国リベリアの独裁者に銃器を売りつけるシーン。
街並みからしても、合法軍事産業から超高額兵器を買えるような経済状況ではありません。
経済的な問題もさることながら、毎日オープンカーに乗って自動小銃を乱射しまくるようなヤツらに、最新兵器を扱える脳みそは到底ないでしょう。
ましてや難民を虐殺するような独裁国家相手に、合法的に武器を販売してくれる軍事企業や国がいるとも思えません。
そこで登場するのが非合法な武器商人ユーリー・オルロフ。
彼が売るのは最新鋭でもなんでもなく、戦地で捨てられた自動小銃AK-47。
最新鋭の兵器でもなければ新品でもないからたぶん安い。
そしてAK-47(後程軽く解説)は扱いが簡単で壊れにくいことでも有名。
なのでね、正しい訓練を受けた兵士でなくとも扱いはお茶の子さいさい。
武器商人が暗躍し、必要とされる理由が何となくわかりますね。
正規品を買えない層向けの闇ブローカーといったところでしょう。
どんな業界にもありそうな話しです。
「需要があるから供給がある」「適当な場所に適当なものを」。
商売の基本っちゃあ基本ですけど、ただまあ犯罪ですからね。
需要を見抜くセンスとその行動力。
商売人・経営者として非凡なものを感じますが、まあ犯罪ですからね。
ウォッカに次ぐロシアの名産品「AK-47」
先ほどちょろっと登場した自動小銃AK-47の情報を少しだけ。
まずAK-47というのは、1949年にソビエト連邦で開発された自動小銃の名称。
AK-47の特徴は以下の通り、とにかく頑丈で単純簡単。
- 銃内部に泥や砂が入っても水で流せばOK
- 猛暑・極寒・多湿、どんな環境でもOK
- とにかく頑丈で故障しない
- 銃初心者でも数日で扱えるようになる
ベトナム戦争ではアメリカに敵対する国々がAK-47をベトコンに大量供給。
沼地・熱帯雨林のような過酷環境だろうと、ベトコンが扱うAK-47は故障することなく大活躍。
一方アメリカ軍は、沼地や熱帯雨林を進む過程で故障した自国の銃を捨て、ベトナム兵のAK-47を奪って使っていたとか。
どれだけ精度が良くて最新の技術が詰まった銃だろうと、いざ撃てなければ邪魔な鉄の塊に過ぎませんからね。
それからAK-47は扱いやすさもピカイチ。
映画の中でリベリア大統領が、「14歳のカラシニコフ(AK-47の愛称)隊を作るんだ」と意気込んでいたのが印象的でした。
14歳でも扱える銃であることを印象付けるとともに、紛争地域では子供すらも兵士になるのが当たり前な現実胸が痛みます。
ちなみにですが、冷戦後のロシアで輸出品ランキングは第一位がAK-47で第二位がウォッカなんだとか。
これは『ロード・オブ・ウォー』の中での表現で、さすがに「ちょっとフカしてるでしょ」と思いますけどね。
ただまあロシアは天然ガス以外に資源の乏しい国、あながち嘘じゃないのかもしれないですね。
知らんけど。
独裁国家リベリアの危うい現実
『ロード・オブ・ウォー』を観ていて感じたのが、独裁国家リベリアのヤバさ。
アフリカ大陸の紛争地域の悲惨さ、独裁者の身勝手さに驚きます。
いかに平和大国日本で平和ボケしていたかを痛感した次第であります。
- 自分の妻を見ていた仲間を躊躇なく射殺
- 14歳のカラシニコフ隊結成
- 少年兵を薬づけにして戦地へ送り出す
映画を観る限り、独裁国家権力者連中の「良い面」なんて皆無ですね。
リベリア大統領のモデルはチャールズ・テーラー
そしてこの独裁国家リベリア大統領にもモデルがいたようなのでご紹介しておきましょう。
その名もチャールズ・テーラー。
映画にも登場する西アフリカの国、リベリアの大統領です。
チャールズ・テーラー が何をしたかというと、とある内戦への資源提供。
西アフリカのシエラレオネという国で内戦が勃発。
内戦の状況を簡単に言えば、「政府軍VS反政府勢力RUF(革命統一戦線)」の戦いです。
チャールズ・テーラーは反政府軍RUFに資金や武器提供、さらには軍事訓練までしてあげる肩の入れよう。
さらには虐殺やら何やら非人道的なことも随分とやっていたみたいですね。
で、そもそもチャールズ・テーラーに武器を供給していたのが武器商人 レオニド・ミーニン 。
今記事でも紹介した、ユーリー・オルロフのモデルと言われる武器商人の一人ですね。
シエラレオネ内戦がなぜ勃発したかと言えば、ダイヤモンド鉱山の支配権をめぐる争い。
チャールズ・テーラーは資源提供と引き換えに、ダイヤモンドを受け取っていたんですね。
安心して下さい、チャールズ・テーラーはこの内戦での虐殺や非人道的な行為をしっかりと司法で裁かれています。
2012年に懲役50年を言い渡され、現在イギリスの刑務所に服役中。
まあ、生きている間に出所することはまず不可能でしょうね。
映画の中では武器商人ユーリー・オルロフから武器を大量に購入するシーンまでしか描かれておらず、リベリア大統領が逮捕されることはありません。
国連安保理常任理事国が世界最大の武器供給国
『ロード・オブ・ウォー』のラストはこんな字幕で締めくくられます。
最大の武器供給者は米・英・露・仏・中である。この5ヶ国は国連安保理の常任理事国でもある。
んー、まあ予想通りですね。
国連安保理に対する皮肉が効いていて、何ともアメリカ映画らしいメッセージです。
この映画は2005年の映画なので、おそらくその当時のデータでしょう。
それから15年後、2020年の武器輸出額上位5か国も調べてみました。
- 米国
- ロシア
- フランス
- ドイツ
- スペイン
資料: GLOBALNOTE
出典・参照:世銀(World Bank)
上位3か国は顔ぶれが全く同じ、中国とイギリスが抜けて欧州の2か国がランクインですね。
じゃあ一体どこに輸出しているのかも気になるところでしょう、武器輸入額上位5か国も調べてみました。
- インド
- サウジアラビア
- オーストラリア
- 韓国
- エジプト
資料: GLOBALNOTE
出典・参照:世銀(World Bank)
もっと順位を掘り下げてみていくと、「あれ?この国に売って大丈夫?」的な国も登場。
うーん、軍事産業は闇が深い。
大金が動く事業は色々とアレですね。
国連安保理は戦争・紛争を平和的解決に導く組織
そもそも国連安保理はどんな組織かといえば、世界平和のために「戦争・紛争やめようぜ、平和的に解決しようぜ」っていうスタンスの組織。
外務省のHPによれば下記の通り。
国連憲章上の主な権限は、紛争当事者に対して、紛争を平和的手段によって解決するよう要請したり適当と認める解決条件を勧告したりすること、紛争による事態の悪化を防ぐため必要又は望ましい暫定措置に従うよう当事者に要請すること、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、平和と安全の維持と回復のために勧告を行うこと、経済制裁等の非軍事的強制措置及び軍事的強制措置を決定すること、などです。
引用音:外務省
戦争や紛争を平和的解決に導くはずの国連安保理。
その常任理事国が武器輸出国として莫大な利益を上げている現実は何とも矛盾したものであり、国連安保理の存在意義が全くもって意味不明。
軍事産業は額がえげつないですから、商売としてはやめられないんでしょうね。
表向きは「世界平和」なんて皆訴えますが、資料・統計を見れば「ほんとに世界平和願ってる?」って感じです。
所詮は戦勝国が作った組織、「歴史を語れるのは勝者のみ」。
武器商人の半生を描く傑作『ロード・オブ・ウォー』
ということで、『ロード・オブ・ウォー』ネタバレ考察レビューでした。
そもそも武器商人を題材にした映画は珍しく、マフィアやギャングが一切登場しないことも印象的。
武器そのものではなく、「武器商人」というビジネスについて描いた映画に徹した点が高評価ポイントですね。
スーツを着てブリーフケースを片手に、世界各国で違法に武器を売りまくるビジネスが存在している現実。
世界中で内戦・紛争戦争・テロを撲滅するには、まずは武器の流通を止めないと無理でしょう。
まあ、色々と考えさせられます。